2025年5月15日、米国発の「AI拡散規則」が施行される。これは単なる技術規制にとどまらず、世界のAI産業と地政学のバランスを大きく揺るがす動きだ。規制対象はAI用の最先端半導体──すなわち、エヌビディアが誇るH100チップなどが中心である。
AI拡散規則とは?国際分断を招く“輸出の壁”
米国商務省が2025年1月に発表したこの規則は、世界各国を技術パートナーシップのレベルによって「3つのティア(層)」に分類し、AI半導体の輸出を国別に制限する制度だ。
- ティア1:日本、韓国、台湾、イギリス、ドイツなど17カ国+台湾が含まれ、これらの国々には制限なく輸出が可能。
- ティア2:約120カ国が該当し、輸出量や用途に応じて制限を受ける。
- ティア3:中国、ロシア、イラン、北朝鮮などが含まれ、完全な輸出禁止対象。
この規則の導入目的は、「最先端AI技術が米国の安全保障を脅かす勢力に渡ることを防ぐ」ことにあるとされている。
エヌビディアCEOが見直しを訴える理由
この動きに対し、米半導体大手エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、トランプ政権に対し規制見直しを求める立場を明らかにした。2025年4月30日、ワシントンでの記者会見でフアン氏は次のように述べた。
「新たな枠組み規制がどんなものになるか不明だが、枠組みが打ち出された当時と今とでは状況が根本的に異なることを認識しておかなければならない」
彼の主張は、規制が米国企業の競争力を損ねる可能性への懸念だ。AI開発の主導権を握るためには、グローバル市場への展開が不可欠であり、輸出制限はその障壁になる。
トランプ政権の新たな輸出戦略案とは
トランプ政権側も、この規則の見直しを検討している。バイデン政権下で策定された「一律のティア分け」に対し、現政権は「個別ライセンス制度」への移行を模索中だ。
現在、NvidiaのH100チップは1,700個未満の取引であればライセンス不要とされているが、これを500個未満に引き下げる案も浮上している。また、中国などティア3国への技術流出を防ぐ一方で、米国の経済利益と技術革新を両立させるバランスが問われている。
中国のAI開発状況と影響力
フアンCEOが特に警戒しているのが、中国のAI開発力だ。中国の通信機器大手ファーウェイは、自社製のAI半導体の開発に本格参入しており、Nvidiaにとっては強力な競合となっている。
フアン氏は「中国は遅れていない。彼らは私たちの非常に、非常に近い、すぐ後ろにいる」と述べ、米国の技術的優位性が追い抜かれる危険性に言及した。
技術と地政学が交差する最前線
AI半導体輸出規制は、単なる貿易管理措置にとどまらず、米中の技術覇権争いを反映する地政学的な戦略でもある。規制が有効に機能すれば、米国は最先端技術のリーダーシップを維持できる。しかし、過剰な制限は自国企業の国際競争力を削ぎ、結果的に中国や他国に技術的優位を譲る可能性もある。
エヌビディアのような最先端企業の声が政策にどれほど影響を及ぼすのか──そして、世界のAI技術地図がどう塗り替えられるのか。5月15日は、その分岐点となる。