2025年、テクノロジー業界において大きな転換点となる可能性のある動きが明らかになりました。米グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、同社が開発する生成AI「Gemini(ジェミニ)」を、アップルのiPhoneに統合するための協議を進めていることを法廷で証言しました。業界を代表する2大企業によるこの連携が、スマートフォンとAIの未来を大きく塗り替えることになるかもしれません。
1. ピチャイCEOが証言した「Gemini統合」の真相
2025年4月30日、米ワシントンD.C.で開かれた米司法省との反トラスト法訴訟の法廷にて、ピチャイ氏は、アップルとGemini統合に関する協議を行っていると証言しました。彼によると、2025年中の正式合意を目指して、アップルのティム・クックCEOとの間で複数回の会談を行ってきたといいます。この証言は、GoogleとAppleという2社の関係が、これまでの競合関係から、AI分野においては連携へとシフトしつつあることを示しています。
2. iOSにおけるAI戦略の全貌:ChatGPTとの違いは?
現在、アップルは既にOpenAIの「ChatGPT」を自社OSに統合しており、iOS 18以降ではSiriやWriting ToolsなどでChatGPTを利用することが可能になっています。Appleは複数の外部AIモデルを統合する「マルチモデル戦略」を採用しており、Geminiもその選択肢の一つとなる予定です。
GeminiはGoogleが開発したマルチモーダルAIで、テキスト・画像・音声・コード生成などに対応しています。一方のChatGPTはOpenAIが提供する高度な対話型AIであり、両者は性能面で競合していますが、用途や処理形式に若干の違いがあります。ユーザーは将来的に、使用目的や好みに応じてAIモデルを選択できるようになると見られます。
3. 技術的な課題とプライバシーへの対応策
アップルは従来からユーザープライバシーを重視しており、AI導入に際してもその姿勢を崩していません。GeminiをiOSに統合するにあたり、オンデバイスでのAI処理、あるいはクラウド処理の分離など、データの取り扱いに関して技術的な調整が必要とされます。
また、Apple Intelligenceに複数のAIエンジンを組み込むことで、ユーザーが各AIの動作を明示的に許可・制御できる機能が追加される見通しです。これはGoogle側にとっても、透明性と信頼性を担保する上で重要なポイントとなります。
4. アップルが進める「マルチAIモデル戦略」とは
アップルは、特定のAIプロバイダーに依存せず、複数のAIを連携させる戦略を進めています。2024年にはOpenAIとの連携を発表し、現在はMistralなど他社AIとも接触していると報じられています。
Geminiは、その性能やGoogleのエコシステムとの親和性から、iOS向けAIラインアップの中でも重要な位置を占めると予想されています。これによりアップルは、ユーザーに多様なAI体験を提供し、機能性と自由度の両立を実現しようとしています。
5. 反トラスト裁判が提携に与える影響
現在進行中の米司法省との反トラスト法訴訟は、Googleにとって大きな経営リスクとなっています。ピチャイ氏は、政府が求める救済措置──たとえばChromeブラウザの分割や検索データの共有義務など──が実現すれば、検索およびAI事業の継続的な投資が困難になると警告しています。
このような厳しい規制環境の中で、Geminiのような生成AI技術を他社製品に広く提供することは、Googleの戦略的な脱・検索依存の一環とも言えます。アップルとの提携は、そうした中長期的なビジョンの一部として位置付けられています。
今後、2025年6月のWWDC(Appleの年次開発者会議)において、GeminiのiPhone統合が正式発表される可能性があります。正式な導入が実現すれば、モバイルAIの世界は大きく様変わりすることになるでしょう。