【日本語訳】ホワイトハウスがアメリカのAI行動計画を発表

ついにアメリカがAI戦争に本格参戦──2025年7月、ホワイトハウスは「AMERICA’S AI ACTION PLAN(アメリカのAIアクションプラン)」を発表しました。

この国家戦略は、世界のAI覇権をめぐる熾烈な競争において、アメリカが主導権を握り続けるための“ロードマップ”であり、経済、軍事、インフラ、教育、外交、安全保障といった多岐にわたる分野にAIを深く統合する内容となっています。トランプ大統領の指示により策定されたこのプランは、AI技術の開発・導入を加速させるだけでなく、オープンソースAIの推進、ディープフェイク対策、電力インフラの再構築、AI人材の育成、そして国際的なAI外交戦略まで網羅しています。

この記事では、その内容を日本語で徹底的に解説。ビジネス、政策、教育、技術開発に関わるすべての人にとって、今後のAI動向を読み解くうえで欠かせない情報が詰まっています。世界のAI戦略の最前線で、いま何が起きているのか──その全貌に迫ります。

⇩⇩⇩

  1. 勝利への競争
  2. 目次(抜粋)
  3. 序文
  4. 柱 I:AIイノベーションの加速
    1. 官僚的規制の撤廃
    2. フロンティアAIにおける言論の自由とアメリカの価値観の保護
    3. オープンソース・オープンウェイトAIの推進
    4. AI導入の促進
  5. AI時代におけるアメリカ労働者の強化
  6. 次世代製造業の支援
  7. AI活用による科学研究の加速
  8. 世界水準の科学データセット構築
  9. AI科学の推進
  10. 解釈性・制御性・頑強性のブレークスルーへの投資
  11. AI評価エコシステムの構築
  12. 政府におけるAI導入の加速
  13. 国防総省におけるAI導入の推進
  14. 商業・政府のAIイノベーションの保護
  15. 法制度における合成メディア(ディープフェイク)への対応
  16. 柱II:アメリカのAIインフラ構築
  17. データセンター・半導体製造・電力インフラのための迅速な許認可制度の整備と安全保障の確保
  18. AIの発展スピードに対応する電力網の構築
  19. アメリカの半導体製造の再興
  20. 軍事・諜報向けの高セキュリティAIデータセンター構築
  21. AIインフラを支える人材育成
  22. 重要インフラのサイバーセキュリティ強化
  23. 安全設計型AIの普及促進
  24. 連邦政府のAIインシデント対応力の強化
  25. 柱III:国際AI外交と安全保障の主導
  26. アメリカ製AIを同盟国・友好国へ輸出
  27. 国際ガバナンス機関における中国の影響力封じ込め
  28. AI計算資源の輸出管理強化
  29. 半導体製造に関する輸出管理の抜け穴を塞ぐ
  30. 同盟国との保護措置の整合性を図る
  31. 国家安全保障上のリスク評価をリード
  32. バイオセキュリティへの投資
  33. 終わりに(補足)

勝利への競争

アメリカのAIアクションプラン
2025年7月
ホワイトハウス


「今日、我々の前には新たな科学的発見の最前線が広がっており、それは人工知能(AI)などの変革的な技術によって形作られています。これらの分野でのブレークスルーは、世界の力の均衡を再構築し、まったく新しい産業を生み出し、我々の生活と仕事の在り方を根本から変える可能性を秘めています。

世界の競合国がこれらの技術の活用を急ぐ中で、アメリカが疑いようのない、揺るぎない技術的支配を達成・維持することは、国家安全保障上の責務です。アメリカの未来を守るためには、アメリカの革新力を最大限に活用しなければなりません。」

— ドナルド・J・トランプ
第45代および第47代アメリカ合衆国大統領

目次(抜粋)

  1. 序文
  2. 柱I:AIイノベーションの加速
    • 官僚的規制の撤廃
    • 言論の自由とアメリカの価値観を守るフロンティアAI
    • オープンソース・オープンウェイトAIの推進
    • AI導入の促進
    • AI時代におけるアメリカ労働者の強化
    • 次世代製造業の支援
    • AI活用の科学研究推進
    • 世界最高水準の科学データセット構築
    • AI科学の推進
    • 解釈性・制御性・頑強性の研究投資
    • 評価エコシステムの構築
    • 政府におけるAI導入の加速
    • 国防総省でのAI導入推進
    • 商業・政府のAIイノベーション保護
    • 法制度における合成メディア対策

序文

アメリカは、人工知能(AI)における世界的支配を目指す競争の中にあります。
最大規模のAIエコシステムを持つ国が、グローバルなAI標準を定め、経済的・軍事的利益を享受することになります。かつて宇宙開発競争に勝利したように、このAI競争にもアメリカとその同盟国が勝利しなければなりません。

トランプ大統領は就任初日から、AIにおけるアメリカのリーダーシップの障壁を取り除く大統領令14179に署名し、AIアクションプランの策定を指示しました。

AI競争に勝利することは、アメリカ国民にとって人類の繁栄、経済競争力、国家安全保障の黄金時代をもたらします。AIは、新素材の発見、新薬の開発、エネルギー利用法の革新など、産業革命を起こします。また、教育・メディア・通信の変革=情報革命を引き起こし、科学理論や芸術の進化=ルネサンスを実現します。

つまり、産業革命・情報革命・ルネサンスが一度に訪れる。それがAIの可能性です。
このチャンスを活かすか、逃すかは我々次第です。

本アクションプランは以下の3つの柱で構成されています:

  1. イノベーション(技術革新)
  2. インフラ整備
  3. 国際外交と安全保障の主導

アメリカは、新しいAI技術の開発・普及において競合国よりも速く、幅広く革新を進め、民間の取り組みを妨げる不要な規制を撤廃しなければなりません。

柱 I:AIイノベーションの加速

アメリカは、世界で最も強力なAIシステムを持つだけでなく、それらを創造的かつ変革的に活用する世界のリーダーでなければなりません。その実現には、民間主導のイノベーションが自由に展開できるよう、政府が環境を整えることが不可欠です。


官僚的規制の撤廃

グローバルなAIリーダーシップを維持するには、アメリカの民間部門が官僚的な制約から解放される必要があります。
トランプ大統領はすでに、過度な規制体制を予告したバイデン政権下の大統領令14110を撤回するなど、重要な措置を講じています。

推奨される政策行動:

  • 大統領科学技術政策局(OSTP)主導で、AIの導入を妨げる現在の連邦規制について、企業や市民から広く情報提供を募り、関係機関とともに見直しを進める。
  • 行政管理予算局(OMB)主導で、すべての連邦機関がAI開発を不当に妨げる規則、覚書、ガイドラインなどを改訂・撤廃するよう促す。
  • OMBがAI関連予算の配分において、各州のAI規制状況を考慮するよう指導し、過度な規制がある州への資金配分を制限。
  • 連邦通信委員会(FCC)が、各州のAI規制が通信法に基づく同機関の権限を妨げていないか評価。
  • 連邦取引委員会(FTC)の過去のAI関連調査や決定が、イノベーションを不当に阻害していないかを再評価。

フロンティアAIにおける言論の自由とアメリカの価値観の保護

AIは教育・仕事・メディア消費など、私たちの生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。だからこそ、言論の自由が守られ、AIが事実に基づいた情報提供を行うことが重要です。

推奨される政策行動:

  • 商務省・NIST主導で、AIリスク管理フレームワークから「偽情報」「多様性、公平性、包摂(DEI)」「気候変動」に関する言及を削除。
  • 政府調達基準を更新し、イデオロギー的偏向のないAI開発企業とのみ契約。
  • NISTのAI基準革新センター(CAISI)主導で、中国共産党の検閲やプロパガンダに沿った中国製フロンティアモデルの評価を実施。

オープンソース・オープンウェイトAIの推進

オープンソース(ソースコード公開)・オープンウェイト(学習済みパラメータ公開)のAIモデルは、スタートアップや学術機関が柔軟に活用でき、イノベーションを促進します。アメリカの価値観に基づくオープンモデルを世界基準にすることには、地政学的な価値もあります。

推奨される政策行動:

  • スタートアップや研究者が大型AIを使いやすくなるよう、コンピューティング資源に関する金融市場(例:先物・現物市場)の整備を支援。
  • NAIRR(国家AI研究資源)パイロット事業の一環として、民間のAI資源を研究機関へ開放。
  • NAIRRの全国的な運営基盤を構築し、より多くの研究者がAIリソースにアクセスできるように。
  • OSTP主導で新たな国家AI研究開発戦略計画を発表。
  • 商務省NTIA主導で、中小企業がオープンソースAIを導入しやすくなるよう関係者の対話を促進。

AI導入の促進

現在、AIの導入を妨げているのは、モデルやツールそのものではなく、導入速度の遅さです。特に医療などの分野では、信頼性や法規制の複雑さがボトルネックとなっています。

推奨される政策行動:

  • FDA(食品医薬品局)やSEC(証券取引委員会)の支援を受け、全国に「AIサンドボックス(試験導入環境)」や「AIセンター・オブ・エクセレンス」を設置。
  • 医療・エネルギー・農業などの分野別にNIST主導で業界横断の対話を実施し、生産性向上を測定。
  • 国防総省(DOD)および国家情報長官室(ODNI)主導で、米国・競合国・敵国におけるAI導入状況を比較分析し、それに基づく継続的な政策調整を実施。
  • エネルギー省、国家安全保障会議(NSC)、OSTPなどが協力し、外国製AIプロジェクトの国家安全保障への影響を監視・分析。

AI時代におけるアメリカ労働者の強化

トランプ政権は「労働者第一」のAI政策を掲げています。AIによる生産性の向上と新産業の創出は、アメリカ労働者に多くの経済的機会を提供する可能性を秘めています。

一方で、仕事のやり方が全産業・職種で大きく変わることも想定されるため、労働者がその変化に対応できるよう真剣に取り組む必要があります。

2025年4月には以下の2つの大統領令が発令されています:

  • EO 14277「アメリカの若者のためのAI教育の推進」
  • EO 14278「将来の高収入技能職への準備」

推奨政策行動:

  • 労働省(DOL)、教育省(ED)、国立科学財団(NSF)、商務省(DOC)を中心に、AIスキル習得を職業訓練・教育資金の重点目的とする。
  • 財務省主導で、AI教育が所得税法第132条の「教育支援」に該当することを明確化し、企業が従業員のAIスキル習得費用を非課税で補助可能にする。
  • 労働統計局(BLS)や国勢調査局、経済分析局(BEA)などが、既存データを活用してAIの雇用市場への影響(雇用創出・職種変化・賃金変動など)を分析。
  • 労働省に「AI労働力研究ハブ(AI Workforce Research Hub)」を新設し、AIの労働市場への影響を継続的に調査・報告。
  • AIによる失職者を対象とした迅速な再訓練プログラムを労働省の裁量資金で支援。州の「ラピッド・レスポンス資金」を活用し、将来の失職リスクのある労働者のスキルアップを促進。
  • DOLやDOCにおいて、失職者向けの迅速再訓練やエントリーレベルの職種で求められるスキル変化に対応するためのパイロット事業を実施。

次世代製造業の支援

AIは物理世界での革新を加速させます。たとえば、自律ドローン、自動運転車、ロボットなど、名称すらまだ定まっていない新技術が登場するでしょう。

アメリカおよび信頼できる同盟国が、こうした次世代テクノロジーの製造大国となることが重要です。

AIやロボティクスは、製造や物流の新たな可能性を切り開き、国防・安全保障にも応用可能です。

推奨政策行動:

  • 国防総省(DOD)、商務省(DOC)、エネルギー省(DOE)、NSFなどを通じて、中小企業技術革新研究(SBIR)やCHIPS法などの資金を活用し、基盤的・実用的な製造技術を開発・拡大。
  • 商務省NTIA主導で、ロボティクスやドローン製造におけるアメリカ国内のサプライチェーン課題を特定するために業界・政府関係者を招集。

AI活用による科学研究の加速

Invest in AI-Enabled Science

科学の世界そのものも、AIによって根本的に変革されようとしています。
AIはすでにタンパク質構造の予測、新素材の設計、新しい分子の合成などを実現しています。さらに今後は、仮説の生成や実験設計といった知的作業にまでAIが活用されると見込まれています。

しかし、AIによる予測を有効に活かすには、実験のスケールアップや新たな科学インフラの整備が必要です。AI時代の科学には、理論から産業応用への転換を可能にする仕組みが求められています。

推奨政策行動:

  • エンジニアリング・材料科学・化学・生物学・神経科学などの分野で、クラウド連携型の自動研究ラボを民間・研究機関・DOE国家研究所と連携して構築。
  • AIや新興技術を活用して科学的ブレークスルーを目指す「集中型研究機関(Focused-Research Organizations)」を長期支援。
  • 研究者が過去のプロジェクトで生成した高品質データセットを新たな研究提案時に評価対象とすることで、公開データの拡充を促進。
  • 連邦予算で支援された研究者に対し、AIモデルで使用した非機密・非個人情報のデータセット公開を義務づける。

世界水準の科学データセット構築

Build World-Class Scientific Datasets

質の高い科学データは、国家にとっての戦略資産です。
しかし、他国、特にアメリカの敵対国はすでに膨大な科学データを蓄積しています。
アメリカも、世界最大で最高品質のAI向け科学データセットを構築しなければなりません。もちろん、その際にはプライバシーや市民の権利も尊重されるべきです。

推奨政策行動:

  • 国家科学技術会議(NSTC)のAI小委員会に、科学分野のAIトレーニングに必要な最小限のデータ品質基準を策定させる。
  • 連邦統計法(CIPSEA)に基づくOMB規則を発行し、連邦データへのアクセス障壁を低減し、証拠に基づくAI活用を推進。
  • NSFやDOE内に、機密データへの安全なアクセスを可能にするAI研究用のセキュア・コンピュート環境を整備。
  • NSFが主導する「国家セキュア・データサービス(NSDS)」のオンラインポータルを立ち上げ、政府・市民向けにアクセス手段を提供。
  • 農務省、内務省、DOE、NIH、NSF等が協力し、連邦所有地に生息するすべての生物の全ゲノム配列を記録するプロジェクトを検討。
     この新たな生物データは、将来のAI基盤モデルの学習資源として活用可能。

AI科学の推進

Advance the Science of AI

大規模言語モデル(LLM)や生成AIは、AI科学におけるパラダイムシフトでした。
これからのAIの発展にも、同様の革命的ブレークスルーが起きると想定されます。

アメリカがその先陣を切り続けるには、最も有望な分野に対する戦略的・選択的な投資が必要です。

推奨政策行動:

  • 新たなAIの能力を開拓するための理論・計算・実験研究への投資を、次回の「国家AI研究開発戦略計画」において明記。

解釈性・制御性・頑強性のブレークスルーへの投資

現在の最先端AIは、動作の原理がほとんど「ブラックボックス」です。
開発者でさえ「なぜその出力が得られたのか」を説明できないことも多く、特に防衛や安全保障分野での活用には重大なリスクとなります。

この課題を克服することで、AIを高リスク分野でも安全に使えるようになります。

推奨政策行動:

  • 国防高等研究計画局(DARPA)が主導し、CAISI・NSFと協力して、解釈性・制御・敵対的攻撃への耐性に関する技術開発を推進。
  • これらの分野を「国家AI研究開発戦略計画」の重点研究領域に位置づけ。
  • DOD、DOE、DHS(国土安全保障省)、NSF、大学などが連携し、AIの透明性・効果・安全性・セキュリティを評価するハッカソン(模擬攻撃演習)を開催。

AI評価エコシステムの構築

Build an AI Evaluations Ecosystem

AIシステムの性能や信頼性を評価することは、AI業界における標準的な手続きです。特に規制産業では、こうした厳密な評価が不可欠であり、将来的にはAI法規制への応用も見込まれています。

推奨政策行動:

  • NIST(米国標準技術研究所)とCAISI(AI標準革新センター)を通じ、各連邦機関が自組織の任務に適したAI評価を行えるようガイドラインとリソースを提供。
  • NIST・DOE・NSFなどの科学系機関が、AIモデルの測定・評価科学の発展を主導。
  • NIST/CAISIの下で、連邦機関や研究機関が定期的にベストプラクティスを共有する会合を年2回以上開催。
  • DOEやNSFを通じ、安全な実環境でAIシステムをテストできる「AIテストベッド」を整備。農業・交通・医療など複数分野を対象とする。
  • NIST主導でAIコンソーシアムを招集し、拡張性・相互運用性のある新たな評価技術や指標を共同開発。

政府におけるAI導入の加速

Accelerate AI Adoption in Government

AIツールの活用により、政府の業務効率は飛躍的に向上します。
内部業務の自動化や、国民対応の効率化など、様々な活用が期待されます。

OMB(行政管理予算局)は、バイデン政権が設けた制約を撤廃し、政府におけるAI活用を推進しています。

推奨政策行動:

  • 「連邦AI責任者会議(CAIOC)」を公式なAI活用調整機関として定義し、他の連邦会議(CIO会議、CDO会議など)と連携。
  • AI人材(データサイエンティストやエンジニア)を必要とする機関に一時派遣できる人材交換制度を整備。
  • GSA(一般調達局)がOMBと連携し、「AI調達ツールボックス」を提供。全省庁が法令を遵守しつつ、複数モデルから柔軟に選択可能に。
  • GSA主導で「先進技術移転・能力共有プログラム」を整備し、優れたAI事例の横展開を促進。
  • 全省庁に対し、業務にAI活用が有効な職員には、可能な限り最先端モデルへのアクセスと適切な研修を提供するよう義務化。
  • OMB主導で、重要サービス提供機関を中心としたAI導入実証プロジェクトを実施し、国民向けサービスの質を向上。

国防総省におけるAI導入の推進

Drive Adoption of AI within the Department of Defense

AIは戦闘指揮から後方支援業務に至るまで、国防総省(DOD)のあらゆる活動に革新をもたらす可能性があります。

アメリカの軍事的優位性を維持するには、DODがAIを積極的に導入する必要があります。

推奨政策行動:

  • DODに必要なAIスキルを明確化し、それに応じた人材育成プログラムを展開。
  • AI・自律システムの「仮想実証場(Virtual Proving Ground)」を構想段階から整備。
  • DOD業務プロセスを体系的に分類・評価し、AI自動化が可能なワークフローを優先導入。
  • 国家緊急時に備え、クラウドサービスや計算資源の優先利用契約を民間と締結。
  • DOD内の士官学校をAI教育の拠点とし、将来世代にAIリテラシーと応用能力を教育。

商業・政府のAIイノベーションの保護

Protect Commercial and Government AI Innovations

アメリカがAI分野でのリーダーシップを維持するには、先端技術の漏洩や悪用を防がなければなりません。
産業界と連携し、サイバー攻撃・内部不正・知的財産盗難への対策を強化する必要があります。

推奨政策行動:

  • DOD・DHS・CAISI・情報機関と民間AI開発企業が連携し、AIに関するイノベーションをサイバー攻撃などから守る体制を強化。

法制度における合成メディア(ディープフェイク)への対応

Combat Synthetic Media in the Legal System

AIによって作られる偽の音声・映像・画像(いわゆる「ディープフェイク」)は、法制度にも深刻な脅威をもたらします。

すでにトランプ大統領は、性的ディープフェイクからの保護を目的とした【TAKE IT DOWN法】に署名しましたが、さらなる対応が必要です。

推奨政策行動:

  • NISTが「法医学用ディープフェイク評価プログラム(Guardians of Forensic Evidence)」を正式ガイドライン化。
  • 司法省(DOJ)が行政機関向けに、連邦証拠規則901(c)を参考にしたディープフェイク証拠基準を示す。
  • DOJ法政策室が、連邦証拠規則改定に関するディープフェイク関連提案に正式コメントを提出。

柱II:アメリカのAIインフラ構築

Pillar II: Build American AI Infrastructure

AIは、現代の生活で初めて「国家の発電能力」を根本的に増強する必要を生じさせたデジタル技術です。
1970年代以降、アメリカのエネルギー供給能力は停滞していますが、中国は電力網を急拡大させています。
アメリカがAI競争に勝利するには、この傾向を覆さなければなりません。


データセンター・半導体製造・電力インフラのための迅速な許認可制度の整備と安全保障の確保

Create Streamlined Permitting for AI Infrastructure While Guaranteeing Security

AIに必要なインフラは以下の3つです:

  1. チップを製造する工場
  2. チップを運用するデータセンター
  3. それらを動かすエネルギー源

しかし現在、アメリカの環境規制はこれらのインフラ整備を極めて困難にしています。
さらに、外国の敵対勢力が関与する可能性を排除し、安全保障を確保する必要もあります。

推奨政策行動:

  • 環境影響評価法(NEPA)に基づき、データセンター関連のインフラ整備に対する**簡易審査(Categorical Exclusion)**を新設。
  • データセンターや発電施設を対象に「FAST-41」プロセス(重要インフラの許認可加速制度)を拡大適用。
  • データセンター開発向けの**全米統一型許認可制度(Clean Water Act 404)**の導入検討。小規模開発には事前通知不要とする。
  • 空気・水質・有害物質関連法(Clean Air Act/Clean Water Act/CERCLA等)の簡素化・迅速化。
  • 連邦所有地をデータセンターおよび電力インフラ建設に活用可能とするため、対象用地を特定。
  • 外国製の情報通信技術(ICTS)やハードウェアを排除し、AI計算基盤をアメリカ製製品のみに限定
  • AIを使った許認可審査の迅速化をDOEの「PermitAI」プロジェクトを通じてさらに拡大。

AIの発展スピードに対応する電力網の構築

Develop a Grid to Match the Pace of AI Innovation

電力網は経済と国家安全保障の要ですが、現在は老朽化や需給の不均衡といった課題に直面しています。
AIによる電力需要の急増に対応するため、以下の段階的戦略が必要です:

推奨政策行動:

  1. 現行の電力網を安定化させる
    • 老朽設備の延命・既存の予備電力の活用により、供給を確保。
    • 地域ごとの供給能力(リソースアデクアシー)の最低基準を全国で統一。
  2. 既存電力網の最適化
    • 送電線のアップグレード、高効率管理システム、電力需要ピーク時のAI制御を導入。
    • 大規模ユーザーによる電力需要の柔軟な管理方法も開発。
  3. 次世代エネルギーの導入とインセンティブ設計
    • 地熱・核分裂・核融合といった最先端エネルギーの早期連結を推進。
    • 電力市場の設計を見直し、投資と電力供給の安定性を一致させる。
  4. 21世紀の電力戦略の設計
    • 安価で信頼できるエネルギーを全国で提供し、AI時代に対応する。

アメリカの半導体製造の再興

Restore American Semiconductor Manufacturing

半導体はアメリカが生み出した技術革新の象徴です。
今こそ、アメリカ本土に製造拠点を取り戻すときです。

復活すれば、数千の高収入雇用を創出し、テクノロジー分野でのリーダーシップとサプライチェーンの安全を確保できます。

推奨政策行動:

  • 商務省のCHIPSプログラム室を中心に、投資利益率の高い補助金提供過剰な規制の排除を徹底。
  • 半導体製造にAIツールを統合する研究・補助金プログラムの見直しと拡大。

軍事・諜報向けの高セキュリティAIデータセンター構築

Build High-Security Data Centers for Military and Intelligence Community

AIは国家機密レベルの情報処理に活用されることが予想され、
今後は国家レベルの攻撃耐性を持つデータセンターが必要になります。

推奨政策行動:

  • DOD・情報機関・国家安全保障会議(NSC)・NIST/CAISIと民間の連携により、高セキュリティAI施設の標準仕様を策定。
  • 分類情報を扱えるAI環境の構築・運用を各省庁で推進。

AIインフラを支える人材育成

Train a Skilled Workforce for AI Infrastructure

AIインフラを建設・運用・維持するには、高度な技能を持つ人材(電気技師、高度HVAC技術者など)が不可欠です。
現在、これらの分野では慢性的な人手不足が続いています。

推奨政策行動:

  • 労働省(DOL)・商務省(DOC)主導で、AIインフラ関連の「重要職種(High-Priority Occupations)」を定義。
     業界・教育機関と連携し、技能フレームワークや職業基準を策定。
  • 各州・地方自治体・教育機関と連携し、雇用主主導のトレーニングプログラムを整備。
     現職者のスキルアップも支援対象とする。インフラ関連投資にもこのモデルを組み込む。
  • 中高生対象のキャリア体験・プレアプレンティス(職業準備)制度を拡大。地元企業と連携し職業意識を育む。
  • 教育省が中心となり、キャリア教育(CTE)プログラムを刷新。カリキュラム見直しやデュアルエンロール(高校+大学単位取得)を推進。
  • DOL主導で、AIインフラ関連職種における「登録型アプレンティス制度(職業訓練)」を拡大。
  • エネルギー省(DOE)主導で、大学・大学院・高専・コミュニティカレッジと連携し、AI人材の現場研修と再訓練を実施。

重要インフラのサイバーセキュリティ強化

Bolster Critical Infrastructure Cybersecurity

AIの進化により、サイバー攻撃ツールとしてのAIと、サイバー防御ツールとしてのAIが同時に発展しています。
特に中小インフラ事業者の防御能力を高めることが急務です。

ただし、AIシステムそのものが敵対的攻撃(例:データ汚染・逆対攻撃)に脆弱であるため、安全設計が必須です。

推奨政策行動:

  • 国土安全保障省(DHS)が主導し、CAISIや国家サイバー局と連携して**AI-ISAC(AI情報共有分析センター)**を創設。
  • DHSが民間企業向けに、AIに特化した脆弱性への対処・復旧ガイダンスを発行。
  • 既存のサイバー脆弱性共有メカニズムを通じ、AIに関する脆弱性情報を連邦政府から民間に積極提供。

安全設計型AIの普及促進

Promote Secure-By-Design AI Technologies and Applications

AIは、敵対的攻撃(例:データ毒化、プライバシー侵害)により、性能が大きく損なわれるリスクを持っています。
特に国家安全保障に関わる用途では、開発段階から堅牢性・安全性を組み込んだAIが求められます。

推奨政策行動:

  • 国防総省(DOD)・NIST・ODNIが連携し、「責任あるAI」および「生成AIの枠組み・ツール」を継続的に更新。
  • ODNI(国家情報長官室)が主導し、情報機関向けにAI保証の標準を発行(ICD 505のもと)。

連邦政府のAIインシデント対応力の強化

Promote Mature Federal Capacity for AI Incident Response

AIの普及により、重大な障害・誤作動が発生した場合、重要サービスやインフラへの影響が甚大となる可能性があります。
よって、AIインシデントに特化した即応体制と標準手順の整備が求められます。

推奨政策行動:

  • NIST/CAISIがAIセキュリティ産業と連携し、**インシデント対応チームの標準・ツール・体制(例:緊急出動キット)**を整備。
  • サイバーセキュリティ・インフラ庁(CISA)の**サイバー対応マニュアル(Playbook)**を改訂し、AIシステムへの対処を追加。
     CISO(最高情報セキュリティ責任者)がCAIO(最高AI責任者)らと連携するよう義務化。
  • DOD・DHS・ODNIなどが連携し、AI脆弱性情報の安全な共有と迅速な通報体制を強化。
     2025年6月の大統領令14306に基づき、AI分野も含めて対応。

柱III:国際AI外交と安全保障の主導

Pillar III: Lead in International AI Diplomacy and Security

AI競争に勝利するためには、アメリカ国内でAIを推進するだけでなく、アメリカ製のAI技術・基準・ハードウェアを世界に広げる必要があります。
アメリカはすでに、データセンター建設、AIモデル性能、計算ハードウェアにおいて世界をリードしています。
この優位性を同盟国との国際連携に転換し、敵対国の「ただ乗り」を防ぐことが鍵となります。


アメリカ製AIを同盟国・友好国へ輸出

Export American AI to Allies and Partners

AIのフル技術スタック(ハード・ソフト・モデル・標準)をアメリカのAI同盟国へ輸出することで、
中国などの競合国が影響力を広げる余地をなくし、世界の技術基盤をアメリカ標準で統一することができます。

推奨政策行動:

  • 商務省が主導して、民間コンソーシアムによるAI技術輸出パッケージ提案制度を構築。
  • 提案採択後は、経済外交行動グループ、国務省、輸出入銀行、米国国際開発金融公社(DFC)などが連携し、安全保障基準に適合した輸出を支援。

国際ガバナンス機関における中国の影響力封じ込め

Counter Chinese Influence in International Governance Bodies

国連、OECD、G7、G20、ITU(国際電気通信連合)などはAIに関する枠組みやコード・オブ・コンダクトを提案していますが、
中には中国の監視・検閲モデルに影響された内容もあります。

推奨政策行動:

  • 国務省と商務省が、国際機関における交渉でアメリカの価値観(自由・革新)を反映したガバナンスモデルを主張。
  • 中国の顔認識技術や監視基準が国際標準となるのを阻止。

AI計算資源の輸出管理強化

Strengthen AI Compute Export Control Enforcement

高性能AIチップは経済だけでなく軍事的にも戦略資産です。
敵対国がこれを獲得することを防ぐことは、国家安全保障上の急務です。

推奨政策行動:

  • 商務省・OSTP・NSCが連携し、AIチップの位置情報追跡技術などを活用して、輸出先を監視。
  • 商務省が諜報機関と連携し、チップの違法輸出や第三国経由の転売を監視。必要に応じて、対象国でのエンドユーザー確認を強化。

半導体製造に関する輸出管理の抜け穴を塞ぐ

Plug Loopholes in Existing Semiconductor Manufacturing Export Controls

現在の規制は主要な製造装置を対象にしていますが、部品レベルのサブシステムには制限が及んでいないことがあります。

推奨政策行動:

  • 商務省が主導し、半導体製造サブシステムへの新たな輸出管理措置を導入。

同盟国との保護措置の整合性を図る

Align Protection Measures Globally

アメリカが輸出管理をしても、同盟国が抜け道になっては意味がありません。
そのため、国際的な保護措置の足並みをそろえることが必要です。

推奨政策行動:

  • 商務省・国務省・NSC・DOE・NSFが連携し、学術・基礎研究における技術保護措置を策定し共有。
  • 国務省主導で「AI同盟戦略計画」を策定し、同盟国にもアメリカと同水準の輸出管理と安全基準の導入を働きかけ。
  • 多国間条約だけに頼らず、**少数国による足並みのそろった輸出管理(plurilateral control)**を推進。
  • 商務省・国防総省が、アメリカの輸出規制に同調する同盟国との協調体制を構築し、防衛産業における敵対国の影響を排除。

国家安全保障上のリスク評価をリード

Ensure the U.S. Government is at the Forefront of Evaluating National Security Risks in Frontier Models

AIは将来的に、以下のような国家安全保障上のリスクをもたらす可能性があります:

  • サイバー攻撃の高度化
  • CBRNE兵器(化学・生物・放射線・核・爆発物)の開発支援
  • 敵対国製AIの“バックドア”による情報操作

推奨政策行動:

  • DOCのCAISIを中心に、フロンティアモデルのリスク評価をAI開発企業と連携して実施。
  • 敵対国製AIのインフラ導入によるセキュリティ上の脆弱性評価も実施(例:通信傍受、隠し命令など)。
  • NIST、DOE、DOD、諜報機関などに最先端AI研究者を積極採用し、リスク分析能力を強化。
  • 国家安全保障に関わるAI評価データベースを構築・維持・更新。

バイオセキュリティへの投資

Invest in Biosecurity

AIは医学・生物分野において大きな恩恵をもたらしますが、同時に危険な病原体や分子の合成というリスクも生じさせます。

これを防ぐために、多層的な検知・監視体制の整備が求められています。

推奨政策行動:

  • 連邦資金で支援されるすべての研究機関に対し、合成DNAの注文における厳格なスクリーニングと顧客認証の実施を義務化
  • OSTP主導で、DNA合成業者間で不正・悪意のある顧客に関するデータ共有メカニズムを構築。
  • CAISI・国家安全保障機関・研究機関が連携し、バイオ関連AIモデルのリスク評価と監視体制を継続的にアップデート。

終わりに(補足)

本アクションプランは、アメリカがAI競争に勝ち抜くための「国家戦略の地図(ロードマップ)」であり、
AIを「国家の成長・安全保障・繁栄」の中核と捉える強い意志が表れています。