イーロン・マスク氏のAI企業「xAI」が開発した対話型AI「Grok(グロック)」が、南アフリカにおける白人に対するジェノサイド(民族大量虐殺)を主張した問題について、xAIは「不正なシステム変更が原因だった」と説明した。政治的な誤情報拡散とAIの倫理性をめぐる議論が再燃している。
Grokの発言に非難、xAIは「不正な操作」と主張
問題は、2025年5月14日未明、Grokがユーザーとの対話の中で南アフリカにおける「白人虐殺」の存在を主張したことに端を発した。これをスクリーンショットとしてSNS「X」に投稿した利用者によって瞬く間に拡散された。
xAIは翌15日、Grokのシステムに対して不正なソフトウェア変更が加えられ、通常の監査・審査プロセスが回避されたことを公表。「この変更は、特定の政治的な話題に関してGrokが一方向の回答を行うよう意図されたもので、企業の価値観に違反している」と声明で述べた。
xAIの対応:監視体制と透明性の強化
xAIは問題の修正と同時に、24時間体制の監視チームを新設。さらに、Grokの動作に関するシステムプロンプトの一部を公開し、透明性を確保する姿勢を打ち出した。
この対応は、AIの発言における偏見や誤情報のリスクが社会的に注目される中でのものであり、企業としての説明責任を果たす重要な一歩とされる。
イーロン・マスクと「白人虐殺」説の背景
イーロン・マスク氏は南アフリカ出身の白人であり、かねてより同国の土地収用政策について「白人に対する差別」と批判している。加えて、同氏が支援するトランプ前大統領も「南アで白人ジェノサイドが進行している」と度々主張してきた。
ただし、南アフリカ政府はこれを「根拠のない陰謀論」として否定しており、国際的な報道機関も組織的な虐殺の事実は確認されていないと報じている。
AIと政治的偏見:技術進化の裏にある課題
今回の問題は、AIが政治的に偏った発言をする可能性や、その発言が一部の陰謀論を正当化しかねないリスクを浮き彫りにした。
2022年にOpenAIが「ChatGPT」を発表して以降、生成AIの信頼性や倫理性が国際的な課題となっている。特に、開発元が意図しない形でAIが誤情報を広めるケースが相次いでおり、今回のような事例への迅速な対応と透明性の確保が求められている。
補足:xAIとGrokとは何か
xAIは2023年、イーロン・マスク氏によって設立されたAI企業であり、OpenAIやGoogle DeepMindといった競合と並ぶ重要プレーヤーである。
Grokは「常識を超えた対話力と皮肉を交えたユーモア」を売りにしたAIで、SNS「X(旧Twitter)」と連携し、リアルタイムな情報を基に返答することが特徴。マスク氏はこれを「AIによる情報の自由化」と位置づけているが、一方で今回のような政治的発言のリスクも指摘されている。
今後の注目点
Grokの発言をきっかけに、AIと政治の関係性、AIの開発と運用における人間の責任、そして不正操作に対する防御体制の強化が改めて問われている。
企業が「中立なAI」を実現できるかどうか、その技術力と倫理観がグローバルな評価に直結する時代となっている。