AI研究者は「現代のプロアスリート」
米国のIT業界で、AI(人工知能)分野のトップ研究者を巡る熾烈な争奪戦が繰り広げられている。OpenAI、Google DeepMind、xAIといった大手は「スーパースター級」人材の確保に向けて、数千万ドル規模の報酬を提示し、前例のない採用競争が加速している。報酬だけでなく、研究資源やビジョンの魅力が勝敗を分けている。
AI人材はプロアスリート並みの争奪対象
ChatGPTの登場以降、AI分野の人材価値は急騰し、企業による獲得競争はまるでスポーツ選手のドラフトのようだ。OpenAIやGoogleは「個人貢献者(IC)」と呼ばれる研究特化型のポジションで、卓越した研究者を確保するために数百万~数千万ドル規模の報酬を提示している。
OpenAIでは、競合企業への流出を防ぐために、200万ドルのボーナスと2000万ドル超の株式報酬を提示した事例も明らかになっている(ロイター取材)。
「1万倍エンジニア」とは何か
OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏は2023年末、「10倍エンジニアもすごいが、1万倍エンジニア/研究者はマジでヤバい」とX(旧Twitter)に投稿。この言葉は、AI分野において一人の研究者が与えるインパクトが通常の技術者の数千倍に及ぶという意味で、現在の報酬高騰の根拠ともなっている。
エリート層は業界全体で数十人~千人程度とされており、その希少性が競争をさらに激化させている。
AI人材の“取り合い”の実態
OpenAIのノーム・ブラウン氏は2023年に転職を検討した際、Googleの創業者セルゲイ・ブリン氏とのランチや、OpenAIのサム・アルトマン氏宅でのポーカーなど、異例の勧誘を受けた。xAIを率いるイーロン・マスク氏が、採用対象者に自ら電話をかけることもあるという。
一方で、彼がOpenAIに残ったのは「資源の潤沢さと、やりたい研究への理解」が理由であり、「金銭的には最高の選択肢ではなかった」と語っている。
DeepMindやスタートアップも巻き込む攻防
Google DeepMindでは、2000万ドル規模の報酬パッケージを用意し、株式報酬のベスティング期間を短縮するなど、柔軟な待遇で人材獲得に挑んでいる。OpenAI元CTOのミラ・ムラティ氏が立ち上げた新興企業も注目されており、2025年初頭にはすでに20人を引き抜き、チーム規模は60人に達している。
補足:OpenAIとDeepMindの背景
OpenAIは2015年に非営利団体として設立されたが、2019年に営利部門を設置し、マイクロソフトから10億ドルの出資を受けて商業展開を本格化。現在ではChatGPTやCodexなどでAI技術の最前線を担う。
一方、DeepMindは2010年創業、2014年にGoogle傘下となり、AlphaGoやAlphaFoldなどで科学とAIの融合に革新をもたらしてきた。2023年にはGoogle Brainと統合され、Google DeepMindとして再編。
AI業界の人材争奪戦はどこまで続くのか
AI分野の急速な進展は、多分野から人材が流入する土壌を作っており、数学者や物理学者までもがAIに携わる時代となっている。データ企業「ゼキ・データ」はスポーツ業界のスカウト手法を取り入れ、埋もれた才能の発掘を進めている。
かつてない速度で進化を続けるAI技術において、誰が最前線を走るのか。そのカギは、希少な“1万倍研究者”の手に握られている。