マスク氏のAIが政府利用拡大、倫理と法的懸念が浮上
イーロン・マスク氏が率いる人工知能企業「xAI」が開発した対話型AI「グロック(Grok)」が、米政府機関での利用を拡大している。政府効率化省(DOGE)が主導するこの動きに対し、倫理的および法的な問題が指摘されており、マスク氏が自らの開発するAI技術を政府業務に使用することが「利益相反」にあたる可能性があると懸念されている。
マスク氏と「グロック」の背景
グロックは、マスク氏が2023年に設立したAI企業「xAI」により開発された対話型AIである。リアルタイムなX(旧Twitter)データを活用することで、時事的な内容にも対応できるのが特徴。2025年にはマスク氏のxAIがXを買収し、AIの学習にXのプラットフォームを本格的に活用する体制を整えた。
グロックは、有料サブスクリプション「X Premium+」で提供され、政府機関でも分析用途での活用が始まっている。
政府効率化省(DOGE)による運用と未承認使用の実態
DOGEはトランプ政権下で再編された新たな省庁で、政府業務の効率化を目的としている。現在、マスク氏が同省の改革を主導しており、その中でグロックの導入が進められている。
しかし、国土安全保障省では正式な承認を得ていないにも関わらず、DOGEのチームが職員に対し利用を指示したケースが複数確認されている。
利益相反と個人情報保護の懸念
元ブッシュ政権の倫理顧問であるリチャード・ペインター教授は、マスク氏がグロックの利用に直接関与している場合、連邦の利益相反規定に違反する可能性があると指摘している。仮に間接的関与であっても、倫理的な問題は残る。
また、グロックのような民間AIに機密性の高い情報を扱わせることにより、セキュリティリスクや個人情報の漏洩リスクが高まる。特に米国では州ごとの個人情報保護法(例:CCPA)が存在し、未承認のAI活用が法的に問題になる可能性もある。
グロック導入でマスク氏の企業に利益も
DOGEがグロックの政府利用を正式に進めた場合、xAIへの使用料が政府から支払われることになる。その結果、政府政策がマスク氏の事業利益と直接結びつく構図となり、民間企業に対する競争上の不公平が生じるという批判もある。
このような事態は、公共政策における私企業の影響力という点で深刻な前例となる恐れがある。
まとめ:AIと政治の接点に求められる透明性
イーロン・マスク氏のAI企業と政府機関の密接な関係は、技術革新の恩恵と同時に、新たな倫理的・法的課題を浮き彫りにしている。AI技術が今後も行政に浸透していく中で、利益相反や個人情報保護といった課題に対して、より高い透明性と監視体制の整備が求められている。