アラブ首長国連邦(UAE)がアラビア語に特化した人工知能「ファルコン・アラビック」を発表。中東諸国の間で生成AI開発競争が加速する中、UAEとサウジアラビアが主導するアラビア語圏AIモデルの革新が注目を集めている。背景にはデジタル主権の確立と、言語的多様性への対応がある。
UAE、「ファルコン・アラビック」を発表
アラブ首長国連邦(UAE)は2025年5月21日、新たなアラビア語対応の大規模言語モデル「ファルコン・アラビック」を発表した。開発はアブダビ先端技術研究評議会(ATRC)が主導し、同評議会のもとにあるテクノロジー・イノベーション・インスティテュート(TII)によって実施された。
このモデルは、「高品質なネイティブのアラビア語データセット」に基づいており、湾岸諸国全体の言語的多様性をカバーすることを目指している。
ATRC事務局長は、「AIにおけるリーダーシップとは、巨大なモデルを作ることではなく、強力かつ誰でも使えるツールを構築することだ」とコメントしている。
米国との協定とトランプ大統領の発言
UAEを訪問中だったトランプ米大統領は、両国が締結した協定について発表。これによりUAEは、米国企業からAI向け先端半導体を調達することが可能になった。
この協定は、UAEがAI技術で世界的な競争力を高めるための重要な一歩とされる。
競合モデル「ファルコンH1」も同時発表
ATRCは同時に、新たなAIモデル「ファルコンH1」も発表。このモデルは、従来のように高度な技術力や計算資源を必要とせず、より少ない負荷で高性能な運用が可能とされる。
ATRCは、これにより米Meta(旧Facebook)や中国Alibabaといった競合を上回る性能を達成したと主張している。
サウジアラビアのAI企業「HUMAIN」も参戦
一方で、サウジアラビアもAI領域への本格的な参入を開始。公共投資基金(PIF)の支援を受けて設立された新企業「HUMAIN」は、アラビア語に特化した大規模言語モデル(LLM)の開発を掲げ、教育や医療、スマートシティなど幅広い分野での応用を目指している。
また、HUMAINはAmazon Web Services(AWS)と提携し、AIインフラ整備やクラウド基盤の開発も進行中である。
アラビア語LLMの重要性と背景
アラビア語は世界で4億人以上に使われる主要言語だが、これまでのAI開発では英語や中国語に比べて対応が遅れていた。そのため、UAEやサウジアラビアは、言語的独自性を保ちながらAI技術を普及させる取り組みに注力している。
アラビア語特化型LLMの登場は、教育・行政・医療・法務分野での活用を可能にし、地域の文化やニーズに即したサービス提供を実現することが期待されている。
補足:アブダビ先端技術研究評議会(ATRC)と「AI71」
ATRCはUAEの科学技術政策を担う中核機関で、AI、量子、ロボティクスなどの分野に注力。直近ではAI関連スタートアップ「AI71」を設立し、マルチドメインAIやセルフホスティング型ソリューションの提供に着手している。これにより、AIを個人や組織が自前で安全に活用できる環境整備が進められている。