2025年2月10日から11日にかけて、フランス・パリで「AIアクションサミット」が開催され、世界各国の政府代表や企業、学術機関が集まりました。
本サミットでは、AI技術の未来や国際的なガバナンスについて議論が交わされましたが、米国と英国が共同声明への署名を見送る可能性が浮上し、国際合意の難しさが改めて浮き彫りになりました。
サミットの開催概要
AIアクションサミットは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の主導で開催され、100カ国以上の政府関係者、国際機関の代表、AI関連企業、学術関係者が参加しました。主な議題として、以下の5つが取り上げられました。
- 公共の利益のためのAI – AI技術の社会的活用と公平な分配
- 未来の労働とAI – 労働市場への影響と適応策
- イノベーションと文化 – 文化産業や経済成長への貢献
- AIへの信頼の構築 – 安全性と倫理的な問題への対応
- グローバルAIガバナンス – 国際的なルール形成
この中でも特に、AIの国際ガバナンスを巡る議論が白熱しました。
共同声明の内容と目的
サミットの成果として、各国が合意する形で共同声明を発表する予定でした。この声明には、AI技術の開発・運用における倫理的な原則や、持続可能で公平な技術発展を推進する枠組みが含まれています。
特に強調されたのは、以下の点です。
- 環境負荷の低減:AIの膨大な電力消費への対応策
- 公平なアクセスの確保:先進国と発展途上国の格差解消
- 安全性の確保:AIの暴走や悪用を防ぐための国際基準の設定
しかし、米国と英国はこの声明に対して慎重な姿勢を示しました。
米英の懸念と立場の違い
米国と英国が共同声明への署名を見送る可能性がある最大の理由は、「持続可能で包括的なAI」という表現に対する懸念です。
- 米国の立場
米国は、AIの規制を厳しくしすぎることで技術革新の妨げになることを懸念しています。バイデン政権は基本的にAIの倫理的開発を支持していますが、業界の成長を優先し、過度な規制には消極的な立場です。また、米国企業(Google、OpenAI、Microsoftなど)の競争力を守るため、EUのような厳格なルールを導入することには慎重です。 - 英国の立場
英国も米国と同様に、AIの発展を促進しながら倫理的な問題に対応する方針を取っています。ピーター・カイル技術大臣は、「まだ交渉中であり、慎重に判断する必要がある」と述べています。英国はEUを離脱しているため、AI規制に関しても独自の方針を模索しています。
これに対し、フランスやドイツを中心としたEU諸国は、AIの持続可能性や公平性を担保するため、より厳格な国際ルールの確立を求めています。
フランスとEUのAI戦略
サミットの開催国であるフランスのマクロン大統領は、AIの持続可能な発展に向けた強力な枠組みの確立を提案しました。特に、AIのエネルギー消費問題に対応するため、フランスの原子力エネルギーを活用する計画を強調しました。
また、フランスはAI産業の発展を促すため、今後数年間で総額1,090億ユーロ(約17兆円)を投資すると発表。これには、カナダの投資会社ブルックフィールドによる200億ユーロのプロジェクトや、アラブ首長国連邦からの最大500億ユーロの資金提供が含まれます。
EUもAI規制の枠組みとして「AI法(Artificial Intelligence Act)」を進めており、倫理的なルールと技術革新のバランスを取ることを目指しています。
AIの未来と国際協力の課題
今回のパリAIサミットでは、国際的なAIガバナンスの必要性が改めて確認されましたが、各国の立場の違いが鮮明になり、一枚岩の合意形成には至りませんでした。
特に、米国と英国が慎重な姿勢を取ったことで、共同声明の最終的な内容や、今後のルール作りの進展が不透明になっています。一方で、フランスやEU諸国はAIの倫理的な枠組みを重視しており、今後も議論は続くとみられます。
AI技術は今後ますます発展していくと予想される中、その国際的なルール作りにどのような調整が行われるのか、引き続き注目されるところです。