アーム、AI強化へ買収を検討
英国の半導体設計企業アーム・ホールディングス(ソフトバンクグループ傘下)は、AIチップ開発に不可欠な通信技術を取得する目的で、英半導体IP企業アルファウェーブの買収を一時的に検討していたことが明らかとなった。
複数の関係筋によると、両社は初期段階の協議を行ったが、最終的にアーム側は買収を見送る決定を下したという。
SerDes技術に注目が集まる
アームが関心を示した背景には、アルファウェーブが保有するシリアライザー・デシリアライザー(SerDes)技術の存在がある。
SerDesは、複数のパラレルデータを1本の高速シリアル信号に変換・伝送する回路技術で、AIチップ間の高速データ転送に不可欠な要素となっている。
特に、ChatGPTのようなAIアプリケーションでは、複数のチップが同時に動作し、高速かつ大量のデータ通信が求められるため、SerDes技術の重要性が増している。
アルファウェーブの動向と中国合弁企業
アルファウェーブ側は、アームを含む他の企業からの買収打診を受け、すでに投資銀行とともに売却の可能性を探っているという。
また、同社は中国企業「ワイズ・ロード・キャピタル」との合弁企業「ワイズウェーブ」を設立しており、米政府はこの合弁先を安全保障上の懸念があるとして「エンティティーリスト」に追加している。
このような地政学的リスクも、アームが買収を見送った一因とみられる。
クアルコムも買収提案を検討中
米国の半導体大手クアルコムもまた、アルファウェーブの買収を視野に入れていることを明らかにしており、今後の交渉の行方が注目される。
AI関連市場における技術競争が激化する中、SerDes技術を巡る企業間の駆け引きが続くとみられる。
【補足】SerDes技術とは何か
SerDes(Serializer/Deserializer)は、複数のパラレルデータを高速な1本のシリアル信号にまとめて送信し、受信側で元のパラレルデータに復元するための回路技術である。
通信の高速化や機器の省スペース化に貢献し、データセンター、自動車、通信インフラ、AIチップなど、幅広い分野で利用されている。
特に、複雑なシステムオンチップ(SoC)を構成する際には、内部データバスの高速化と省電力化のために不可欠な技術となっている。
SerDesはパラレル通信の信号干渉や同期ズレの問題を解決する手段として、1990年代後半から急速に進化してきた。
現在ではPCI Express、Ethernet、HDMI、SATAといった主要な通信規格でもSerDesが中核技術として利用されている。