2025年、AIインフラを巡る企業間の競争が激化している。台湾・鴻海精密工業の大幅な増益、韓国・サムスンの欧州企業買収、米新興コアウィーブの巨額投資計画、さらには米国政府による中東への半導体輸出検討など、AIブームは単なる技術革新にとどまらず、地政学やサプライチェーン構造にも大きな影響を及ぼしている。
AIサーバー好調で鴻海が91%増益、ただし米中摩擦に警戒感
台湾・鴻海精密工業(Foxconn)は5月14日、2025年第1四半期の決算を発表し、純利益は前年同期比91%増の4212億台湾ドル(約13.9億ドル)となった。特にAIサーバー需要の高まりが収益をけん引し、売上高も過去最高を記録した。
第2四半期以降も2桁成長が見込まれているが、米国の関税政策に対する懸念から通期見通しについては慎重な姿勢を崩していない。主力のiPhone組立を中国に依存する鴻海にとって、トランプ政権の再浮上と関税強化の可能性は大きなリスク要因である。
サムスン電子、独フラクト買収で冷却インフラ強化へ
同日、韓国・サムスン電子も戦略的な動きを見せた。AIデータセンターで使用される空調機器の需要増加を背景に、独フラクトグループを約16.8億ドルで買収。過去8年で最大規模のM&Aとなる。
ただし、アナリストの間では「ゲームチェンジャーではない」との評価もあり、投資家は半導体分野での攻勢を期待していた背景から、株価の反応は限定的となった。
米国、UAEへのNVIDIA製AI半導体輸出を検討中
米トランプ政権は、アラブ首長国連邦(UAE)にNVIDIA製AI半導体を100万個以上輸出する協定の締結を検討している。この数量は、バイデン政権下の規制枠を大きく超えるものであり、対中技術競争の一環として湾岸諸国との連携強化が狙いとされている。
この輸出枠の20%はUAE企業「G42」に割り当てられ、残りはOpenAIなどの米企業がUAE内で新設するデータセンターに供給される見通しだ。
コアウィーブ、230億ドル投資でAIインフラを強化
さらに米国では、新興企業コアウィーブがAI関連インフラに200~230億ドルを投資する計画を発表した。同社は既にOpenAIへのインフラ提供契約や、NVIDIAからの出資を受けるなど、業界内で急成長を遂げている。
しかし巨額投資が短期的な収益圧迫要因と見なされ、発表直後に株価は一時5%下落した。AI開発競争が熾烈を極める中で、インフラ整備の速度と収益のバランスをどう取るかが課題となる。
終わりに:AIが変える産業地図、動き出すサプライチェーン再編
今回の一連の動きは、AI技術の発展がもたらす「産業地図の再編」の一端を示している。企業は単なるソフトウェア開発にとどまらず、データセンターの冷却、サーバー製造、地政学リスク回避のための多拠点化など、インフラの川上から川下までの統合戦略を加速させている。
各国政府も輸出規制や関税政策を通じて関与を強めており、今後のAI覇権争いはますます複雑さを増すことが予想される。