脳とAIをつなぐ―ニューラリンクが6.5億ドル調達
米起業家イーロン・マスク氏が創設したニューロテクノロジー企業「ニューラリンク(Neuralink)」は、最新の資金調達ラウンドで6億5000万ドル(約1010億円)を調達したと2025年6月2日に発表した。
この資金により、脳とデジタル機器を直接つなぐブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)技術の開発がさらに加速される見込みだ。
医療革命を目指し、3カ国で臨床試験スタート
ニューラリンクは、脳内の神経信号を読み取り、コンピューターやスマートフォンに送信することが可能なインプラント型デバイスの開発を進めている。
この脳チップは、人間の思考を外部デバイスに伝えることを目的としており、すでにアメリカを含む3カ国で臨床試験(治験)を開始している。
患者は、この技術を通じて身体麻痺を乗り越え、カーソルの操作や機器の制御を思考だけで行うことが可能になるという。
注目の出資者と9社が参加した大型ラウンド
今回の調達には、アーク・インベスト、DFJグロース、ファウンダーズ・ファンド、G42、ヒューマン・キャピタル、ライトスピード、QIA(カタール投資庁)、セコイア・キャピタル、スライブ・キャピタルといった大手ベンチャーキャピタルが参加した。
米メディア「セマフォー」は先月、ニューラリンクの企業価値を90億ドルと評価しており、今回の調達でさらにその価値が高まったことになる。
ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)とは?
BCIとは、脳の神経活動を直接読み取り、デジタル信号に変換して外部機器と通信する技術の総称である。
ニューラリンクが開発しているのは「侵襲型BCI」であり、これは頭蓋内に電極を埋め込む手術を伴うが、非常に高精度な神経信号の取得が可能である。
この技術は、重度の運動障害や神経疾患のある患者にとって、失われた機能の回復を可能にする可能性を秘めている。
ニューラリンクの技術と今後の展望
ニューラリンクが開発する「N1インプラント」は、髪の毛よりも細い1000本以上の電極で構成され、脳内の活動をリアルタイムでモニタリング・解析する能力を持つ。
この装置は完全に皮膚の下に埋め込まれ、手術には独自開発のロボットが使われ、約1時間で完了するという。
2024年には人間への初のインプラント手術が成功し、麻痺患者が思考でカーソルを動かすことに成功した実例が報告されている。
同社は今後、より多くの臨床データを収集し、安全性と有効性の確認を経て、最終的には市販化と医療機器としての承認を目指す。
将来的には人間の知覚能力の強化やAIとの高度な融合も視野に入れているとされており、技術倫理や規制の議論もますます重要になっていく。