米国がAI半導体輸出規制を見直し
2025年5月14日、米国政府はAI(人工知能)用半導体の輸出規制に関し、同盟国への対応を柔軟化する方針を打ち出しました。
これは、安全保障上の懸念と経済的利益の両立を目指す新たな戦略の一環であり、米国の外交・経済政策において大きな転換点となる可能性があります。
「AI拡散ルール」からの転換
ホワイトハウスでAIおよび暗号資産政策を担当するデービッド・サックス氏は、サウジアラビアで行われた「米・サウジ投資フォーラム」にて、バイデン前政権が施行していた「AI拡散ルール」について、「米国の技術が世界中に拡散することを制限する政策だった」と述べ、これをトランプ政権が撤廃する方針を明らかにしました。
この「AI拡散ルール」は、世界を三つの階層に分類し、同盟国には比較的緩やかな取引を認めつつも、中国やロシアには厳しい制限を課してきたものです。
しかし、官僚的で運用が困難との批判があり、新政権はこれを撤廃し、より柔軟な新制度の構築を目指しています。
同盟国との協力体制を強化
サックス氏は「サウジアラビアのような友好国への技術拡散はリスクではなく、むしろ利益である」と語り、AIインフラへの投資を進める中東諸国との協力を重視する姿勢を明確にしました。
特に、GPU(画像処理半導体)の転用リスクについては誤解が多かったと強調し、同盟国への技術移転に対する柔軟な姿勢を示しました。
米AI企業の要望と政策との接点
OpenAI、Microsoft、AMDなど、主要なAI関連企業の幹部らは、米国がAI分野での競争力を維持するためには、同盟国との技術協力やインフラ整備が不可欠だと指摘。
これを受けて、米国政府は国内のAI基盤の強化と並行して、戦略的パートナーへの半導体輸出を推進する方向に政策を調整しています。
UAEへの半導体輸出拡大も検討
この方針転換の一例として、米国はアラブ首長国連邦(UAE)に対し、エヌビディア製のAI半導体を100万個以上輸出する許可を検討中です。
これは従来の輸出制限を大幅に超える規模であり、米国が友好国との連携を強化する実利的な動きと見られます。
補足情報:AI半導体とは
AI半導体とは、機械学習やディープラーニングなどの処理を高速化するために特化されたプロセッサです。
代表的なものとしてはGPU(Graphics Processing Unit)があり、画像処理用途に加えてAIの演算処理にも広く使用されています。
特に、エヌビディアやAMD、インテルなどの企業がこの分野で技術競争を展開しています。
AI半導体は、単に計算能力を高めるだけでなく、国家の情報インフラや防衛、さらにはエネルギー管理や都市運営など、あらゆる分野での利用が期待されており、その輸出管理は国際的な安全保障と密接に結びついています。
今後の展望と注目点
米国がAI半導体の輸出に関して新たなルールを策定することで、グローバルな技術の流通に変化が生まれる可能性があります。
同盟国との関係強化とAI覇権の維持を目的とする一方で、中国やロシアとの技術格差や地政学的緊張が一層高まる懸念もあります。
今後の政策動向と国際社会の反応に注目が集まります。