マスク氏のDOGE、AI導入を主導
実業家イーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」が、同氏のAI企業xAIが開発したチャットボット「Grok(グロック)」を米連邦政府内で導入していたことが明らかになった。
DOGEはトランプ政権下で2025年に創設された省庁で、政府の業務効率を向上させることを目的としており、マスク氏が長官として就任していた。
DOGE職員によると、少なくとも複数の連邦機関でGrokが試験運用されており、一部では職員の政治的忠誠度の測定にも利用されていた可能性がある。
「誰が反抗的かを探る」─ 元職員の証言
ロイターの取材に応じた元DOGE職員は、「Grokを使って、トランプ大統領に忠実でない者を洗い出していたようだ」と証言した。
メールの文言分析を通じて、忠誠心の傾向をAIが判断していたという。
これは従来のAI活用とは異なり、倫理的・政治的問題をはらむ。
Grokとは何か
Grokは、マスク氏が設立したAI企業xAIによって開発された高度な大規模言語モデル(LLM)である。
リアルタイムの情報収集や自然言語処理、推論能力に優れており、X(旧Twitter)と統合された情報源を活用できる点が特徴。
名称は、SF小説『異星の客』に登場する言葉「grok(完全に理解する)」に由来する。
Grokの最新版「Grok 3」は、科学技術、コーディング、論理思考の分野で非常に高い精度を誇るとされており、マスク氏は「どのAIより賢い」と公言している。
利益相反の疑いと法的懸念
この件について、政府倫理の専門家で元ホワイトハウス倫理弁護士のリチャード・ペインター氏は、「Grokの導入は重大な利益相反を引き起こす恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
政府職員がマスク氏の私企業のAIを使用することで、その企業に経済的利益が発生し、公正な契約・調達手続きを阻害する可能性があるという。
またDOGEは議会の監督も不十分で、設立経緯や運用実態が極めて不透明であるとされている。
連邦政府とAI技術の危うい関係
近年、連邦政府機関におけるAI導入は加速している。税務署(IRS)や国防総省などは業務効率化や分析強化のためにAIを導入しているが、その一方で、個人情報保護や民主的統制を欠いた運用への懸念も増している。
今回のように、特定の企業が政治的つながりを通じてAIを導入する事例は、ガバナンスの崩壊とみなされかねない。
マスク氏の影響力と今後の展開
DOGEでの任期終了後も、マスク氏は「大統領の側近として関わり続ける」と公言しており、今後も政権への影響力を保持する意向を示している。
彼の影響力は、AI技術のみならず宇宙、エネルギー、インフラ政策にも及んでおり、トランプ政権の重要なテクノロジーアドバイザーとして位置付けられている。