アメリカで急速に進むAIインフラ拡大「スターゲートプロジェクト」と、トランプ政権による石炭火力推進政策。
一見正反対に見えるこの2つの動きは、実は「エネルギー自立」と「国内産業保護」という共通目的を持っている。
この記事では、スターゲート構想と石炭政策が交差する背景と、今後の米国エネルギー戦略について詳しく解説する。
スターゲートプロジェクトとは何か?
スターゲートプロジェクトは、OpenAIのサム・アルトマンCEO、ソフトバンクの孫正義会長、オラクルのラリー・エリソン会長が主導する超大型AIインフラ計画。
2025年1月に発表され、今後4年間で最大5000億ドル(約78兆円)を投じ、全米各地に次世代型AIデータセンターを建設する。
目指すのは、AI演算の大規模化に対応した超高速・高効率なコンピューティング基盤の構築であり、これによりアメリカのAI競争力を強化する狙いがある。
技術パートナーにはマイクロソフト、NVIDIA、Armなども名を連ねる。
AIがもたらす電力需要の爆発
生成AI(ChatGPT、Geminiなど)の普及により、データセンターの消費電力量は加速度的に増加している。
とりわけAIモデルのトレーニングには、大量のGPUと冷却装置が必要で、1つの施設で中規模都市に匹敵する電力を消費するケースもある。
スターゲートのような巨大プロジェクトが展開されることで、今後のアメリカでは「AIのための電力供給」が社会的インフラとしての重要性を増している。
石炭火力推進とエネルギー自立の文脈
2025年4月、トランプ米大統領は、AIインフラの電力需要増加に対応するため、石炭火力の再活用を含む大統領令に署名した。
ブルームバーグ報道によれば、石炭の採掘促進、火力発電所への投資、AIデータセンター向け優遇電力政策などが盛り込まれている。
これは単に古いエネルギーへの回帰ではなく、「再エネだけでは足りない」という現実と、「海外依存を減らしたい」というエネルギー安全保障の意図がある。
スターゲートと石炭政策の意外な接点
スターゲートプロジェクトと石炭政策の両者は、共に「米国内に資本と雇用を集中させる」という経済戦略の一環といえる。
AIデータセンターは地域経済の起爆剤であり、そこに必要な電力を「国内産業(=石炭)」で賄えば、資金流出を防げる。
実際、トランプ政権は再エネに傾倒する大手IT企業が、海外の電力証書に資金を払っている状況に不満を抱いており、
「AIのための電力はアメリカの資源でまかなうべき」というメッセージを政策として打ち出している。
核融合など代替エネルギーへの期待も
なお、スターゲート側も既に代替エネルギーを模索している。
アルトマン氏や孫正義氏が出資する核融合スタートアップ「Helion Energy」は、今後のAI電力をクリーンかつ大量に供給する可能性がある。
ただし、核融合の実用化にはまだ技術的ハードルが多く、当面は化石燃料に頼らざるを得ない状況だ。
まとめ:AI時代のエネルギー政策は分断と調整の中にある
AIが経済の中核を担う時代において、電力は国家戦略の一部となっている。
スターゲートは未来志向の技術イノベーションだが、それを支える「現実的な電力供給源」として石炭が復活している現状は、エネルギー転換の複雑さを物語る。
今後のアメリカは、再生可能エネルギー、化石燃料、核融合といった選択肢をどう組み合わせ、どこに国家としての舵を切るのかが問われている。