グーグル、核融合発電ベンチャーから電力購入契約
米アルファベット傘下のグーグルは6月30日、マサチューセッツ工科大学(MIT)発の核融合ベンチャー、コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)と、バージニア州で建設予定の商業用核融合発電所「ARCプロジェクト」から電力を購入する契約を締結した。
ニュースサイトのロイターが30日に報じた。
契約内容は、ARCプロジェクトが発電する総容量400メガワット(MW)のうち、グーグルが200MWを購入するもの。CFSは2030年代前半の発電開始を目指しており、商業用核融合発電による電力購入契約としては世界的にも先進的な事例となる。
核融合発電の可能性と課題
核融合発電は、軽水素などの原子核同士を極高温で融合させることで莫大なエネルギーを得る仕組みで、太陽が輝く原理と同じである。核分裂発電と異なり、長期にわたり有害な放射性廃棄物をほとんど出さないことから、地球温暖化対策としても注目を集めている。
ただし、商業化には「投入エネルギーより多くの出力を得る」こと(科学的ブレークイーブン)や、長時間にわたり安定運転できる「工学的ブレークイーブン」など、物理学的・工学的に未解決の課題が多い。
グーグルの先端エネルギー部門責任者マイケル・テレル氏も「依然として解決すべき深刻な課題がある」と認めつつ、「未来を実現するために今、投資する意義がある」と語った。
CFSとARCプロジェクトの背景
CFSは2018年にMITのプラズマ科学・融合センターからスピンオフしたスタートアップ企業。特に「高温超電導磁石(HTS)」を用いて、従来の核融合炉よりもコンパクトかつ高効率なトカマク型装置「SPARC」の開発を進め、SPARCでの成果を基にARCプロジェクトの商業運転を計画している。
グーグルは2021年にもCFSに対して他の投資家と合わせて18億ドル規模の出資を行っており、今回、追加出資も表明したが具体的な金額は非公表。グーグルはAIやデータセンターの拡張に伴い急増する電力需要を背景に、再生可能エネルギーだけでなく次世代エネルギー源として核融合にも注目している。
核融合発電業界の今後
世界各国では核融合発電の開発競争が進んでおり、米Helion、英Tokamak Energy、仏国際熱核融合実験炉(ITER)なども2030年代の商業化を目指している。SPARCが成功し、ARCプロジェクトが稼働すれば、米国発の核融合発電が世界に先駆けて商業化する可能性がある。
核融合発電は理論上、海水から燃料を得られるため、燃料供給面でも安定性が高いとされる。長期的には世界のエネルギー地図を塗り替える存在となる可能性もあり、今回のグーグルの契約はその第一歩と位置づけられる。